特定非営利活動法人 武道和良久

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誌上講座

誌上講座638「イタリア出向記(3)」

7月17日(月) 晴れ

5時起床。
朝拝。鎮魂。

8時、レストランで待ち合わせていた
岸先生ご夫妻と落ち合い、
共に朝食を楽しむ。

こちらへ来てから、食事は食べるというより、
楽しむという表現があっているように思う。

パンにりんごにカフェラッテという軽い食事。

夕べも遅くまで夕食?をとっていた。
こちらの方は実によく食べ、よく飲む。

そりゃーあれだけ食べたら、
朝は食べれないだろう。

しかし、懸念されていた時差ぼけも無く
いたって元気でいるのはありがたい。

元気と言うのはほんに有り難いと思う。

元気であればこそ、皆と楽しく語り合え、
皆とおいしく食事をとれ、皆と稽古が出来る。

元気であればこそ身の回りの景色が
一層際立って美しく感じられるもの。

さて、食後9時半から稽古。

ホテル前に参加者全員が集合。
初めての顔合わせだ。

昨日のデモンストレーションに
参加していた方も数名混じっておられる。
これは特別の計らいである。

今回の稽古はあらかじめ募集を募って
人数を限定したセミナーであるので、
途中からの参加はご遠慮願っているのだ。

このセミナー、皆同じホテルで
衣食住を共にすることで
集中的に稽古を行うものだ。

いわば日本で言う「合宿」と同じである。
その数30名。いろんな国からの参加は、
まるで多国籍軍のようだ。

それに、今日は昨日の見学者も混じって
大方40名はいるだろうか。

稽古場は野外と屋内の両方を用意してくれている。
それで、朝の涼しいうちは
野外でやろうと言うことになった。

野外も2箇所用意してくれている。

今朝は、歩いて5分ほどのところにある
自然の風景の美しいところで行うことにした。

ここは岩が屹立し、木々も丁度良いところにはえ、
草もよく刈られて整備されてて、
ほんに武道稽古にはよいロケーションである。

聞けば、アルドさんの親戚のお宅の土地だそうだ。

広い土地の中でも、特に気の良い場所をみつけ、
そこに持参した水を撒き供え、天津祝詞を奏上し、
十字の法をもって稽古場に結界を張り巡らした。

その間、稽古人たちも神妙な面持ちで
私のすることを手を合わせて見つめていた。

昨日、この場に来て、私は岩上に登った。
そこからは、イタリアの美しい景色が
四方に広がり、やはり思わず合掌して祈った。

小高い山の上には大きな十字架が見え、
時折鐘の音が響き時を告げる。

その鐘の音に合わせるかのように、
稽古を始めた。

まず挨拶を行う。

「皆さんとこの地において
和良久を稽古出来ることは
私にとって何よりの喜びであります。

和良久は宇宙の運行を表し、
宇宙と同化する技です。
そのため本来、武道の稽古は
野外で行ってきたものです。

このような素晴らしい自然の中で
思い切って声を出し体を動かすことは
日本でも中々出来ません。

今日は、心行くまで言霊を発し、
体を螺旋させ、
この自然と一体になりたいと思います」

そして、あらためて四拍手を打つ
神前礼拝の仕方を指導し、
先の岩場を斎場として礼拝。

続いて「八力の型」を指導。
有る程度、格好がついたら、
次に「八剱の型」を指導。

稽古中、かなり老齢の男性がふらりと現れ、
私たちの稽古を遠巻きに見ておられる。

最初、山の陰になって、
涼しく稽古させていただけたが、
徐々に日差しが我々に迫ってきた。

ここペンナビリは
ローマなどと違って湿気がなく、
日陰は本当に涼しい。

しかし、直射日光はけっこう鋭く、
日差しが強い。

時間はと尋ねればもう11時。

ここでいったん場所を変えて屋内に移動しようと、
アルドさんらと相談がまとまった。

移動がてら中休みを挟んで、
11時半に稽古を開始することに。

稽古後、さっきの老人が
私のところにやってきた。
アルドさんの親戚の方だとか。

ここで稽古出来ることに感謝を述べ
「よくこのような場所がありましたね」
と言うと、この場所は私が造ったものだと言う。

「あの石垣も私が積んだ。
あの草や木も私が植えた」
と言うので
「これは日本の風景そのものですよ」と
言うと、

「そう、日本をイメージして造った」
と言う。

そして、突然こんなことを言い出した。
「私は天国に行けるだろうか」

その表情は決して円満な相ではなく。
かなり苦悩に満ちた生涯を送っておられる。

私は『こりゃ難しいぞ・・・』と思ったが、
そんなこと言えないので
神様に祈ることにした。

私はその老人の肩に手を置き、
眼を閉じて小声で祝詞を奏上し、
一心に神様にお願いした。

しばらくして眼の奥に光るものを見た。
そして安堵感に包まれたので
「大丈夫ですよ」と答えた。

苦虫を噛み潰したような顔した老人は、
精一杯の笑顔を返してくれた。

さて、屋内の場所は、
歩いて約10分のところにある
昨日デモンストレーションを行った会場である。

さあ、次の稽古は鎮魂。

これに入るに先立って
以下のことを講義する。

①鎮魂帰神と瞑想との違い

②正しい正座の姿勢と、正座の効果

③鎮魂の印(手の組み方)

④五大父音の発声方法
(喉、唇、歯、舌、牙の使い方)

⑤言霊の意味と使用法
(一霊四魂、三元、八力の解説)

⑥鎮魂中の想念の持ち方
(イメージ法=フトマニノミタマ)

⑦丹田の位置(三田)と、
その箇所の力のあり方

⑧音声と霊魂と力の関係
(一霊四魂と八力の関連性)

⑨音声と呼吸法(胸式、腹式、胸腹)の関連

⑩宇宙時間と魂の輪廻

以上のような内容をはじめ、その他、
ホワイトボードに変わる大きな紙を用いて、
そこに絵や図を描き、心と体の仕組みを解説。

初めて聞く理念に、皆真剣になって聞いている。

そして、偉いのは皆、
筆記用具を用意して記録している。
また、私が紙に書いたものを
余さず写真におさめている。

あとで見ると、ノートにびっしりである。

さて、実習に映る。

まず発声方法。

右手の指で、神代文字である、水茎文字をかたどり、
口の前で「アオウエイ」の発声の形を行い、
それにしたがって声に出してみる。

次に、胸やお腹に手を当てて、
各音声の呼吸発声源を確認。

次に各音を出すときのイメージを
「フトマニノミタマ」を
空中で描かせ覚える。

そしていよいよ発声開始。
姿勢を正し、鎮魂印の組み方をし、
私の発声に合わせ「スウアオエイ」と高唱する。

幾度も幾度も繰り返し、
やがて素晴らしいハーモニーが
生まれた。

皆が一つになっていくことを実感し
涙があふれる。
これは私だけではなかった。
皆の目が潤んできた。

この鎮魂をもって午前の稽古を終了する。

稽古閉めの礼拝。四拍手。

稽古後、また拍手が湧いた。
私は恥ずかしくてならなかった。

ホテルへ帰り、皆と昼食をとる。

毎回違うパスタが登場するが、
あと大体同じメニューが続く。

パンやサラダ、チーズ、
骨付きのビーフなど、そして
定番の赤ワイン。

おしゃべりを楽しみながら、
時間をかけて食べる。
食事中も質問が相次ぐ。

中には人生相談もある。

病気の相談や家族の揉め事など、
どこの国も人間同じような悩みを抱えて
生きているんだなと思う。

親切のありったけを尽くされること・・・
と日出麿先生の言葉を思い、
様々な質問や相談に、
祈りながら一つ一つ丁寧に答えていった。

祈って神様に心を委ねると
不思議と答えが当意即妙に出てくる。
その答えに皆が納得し、涙する。

神様は呼べば答えてくださる。

長い昼休みも終え、3時半から稽古再開。
場所は先と同じ会場である。

皆で木剱を抱え、街に行列をなして
歩くさまはまるで大名行列のようだ。

ホテルの宿泊客たちや、
街の人たちも珍しそうに眺めている。

私がゴミを拾いながら歩くと、皆も真似する。
ここは比較的綺麗な街で、
本当にゴミが落ちていないが、
それでも吸殻や紙くずがあると手が伸びる。

四代様は朝の散歩でよくゴミを拾われていた。
五代様も同じようにそうされている。

子は親の真似をする・・・とかで、
私も教主様のやってきたことを真似てきた。

その真似をまた弟子たちがやる。
しかも外国の弟子たちが。

何度も言うが、
国が変わっても人間は変わらない。
本質は同じだ。

良いことはどこの国でもよいことである。
悪いことはどこの国でも悪いことなのである。

午後の稽古は、
もう一度朝の稽古のおさらいを行う。

1、神前礼拝
2、八力
3、八剱
4、鎮魂

休息中も彼らは外で稽古をしていた。
だからであろうが、
非常によく飲み込んでいる。

約1時間半稽古の後、20分の休息を入れ、
もう1時間半行う。

暑い中、強行軍だが、
何せ与えられた時間がない。
皆も稽古を望んでいる。
鉄は熱いうちに打てとか。

次の稽古は、八力の腰の入れ方。

凝なら凝の体勢を維持させて、
私が彼らの組んだ腕を押さえて
静止状態を耐えさせ、腰を強くすると言う
ちょっときつい稽古だ。

しかし、これによって
「剛」の状態を早くつかむことが出来る。

半分に分けて、八力を交互に行い、
全員一人一人私が回って押さえる。

皆、中々力が強い。
しかし腰の入れようがなってない。
当然といえば当然か。ここは外国だもの。

日本でさえ近年腰を入れるということを
知らない人は多い。
外国人ならなおさらである。

人に腰を入れさせるのには、
相当のエネルギーを要する。
40人全員に一人一人回るのはかなりきつい。

ようやく終わったあと、
かなり私の体が張った。

しんどかったが、効果はあった。
最後におこなった八力の何と力強いことか。
見ていて惚れ惚れした。

午後6時半、ようやく本日の稽古が終了。
あと二日もある・・・ではなく、
あと二日しかない。

この地に残すべきことを
しっかり残さねばと気がせく。
もっと時間が欲しい。

しかし、今日も精一杯やった。
これ以上私には出来ないほどやったと思う。

神様への礼拝、そして
「ありがとうございました」の挨拶。

稽古前の「よろしくお願いします」に
相当する言葉がないと言うので、
稽古の前後の挨拶はすべて
日本語で行うことになった。

また拍手。嬉しいけど
稽古事にいちいち拍手されるのも
何だか嬉しいような・・・
日本人として妙な感じがしてならない。

しかし、これも皆の好意の表現なのだからと
深々と頭を下げるしかなかった。

それにしても
通訳のアッテリアさんはすごい。

難しい専門的な言葉も、
雰囲気で解して伝えてくれている。
また本人も通訳しながら
一緒に稽古をしているのだ。

ず~としゃべりっぱなしだ。
これはすごいエネルギーだ。

「アッテリアさん、お疲れ様、大丈夫ですか?」

さすがに疲労の色が伺える彼女に
言葉を投げかねると
「先生大丈夫です、心配しないで下さい」と言い、

「私も和良久のもつ深さに驚いています。
これは是非このヨーロッパに
広げなくてはならないと思います。
私も和良久を学びたい。いいですか?」

と言うので
「もちろんです。でも無理しないで下さいね」
と答えた。

「中田はプライドが高くやりにくかったです。
でも先生はとっても親切です。
お心遣いに感謝しています」

そう言ってくれた。

私が気張れば気張るほど、
彼女も気張らねばならない。
心から感謝せずにはおれない存在である。

さて、三々五々、
夕方の街を皆とぷらぷらとホテルに向かう。

教会の鐘もカラーン、カラーンと鳴る。

ほっこりとして、
温泉に行ってきたような顔して
歩く皆の幸せそうな様子を見ていると
疲れなど一気に吹き飛んだ。

部屋に帰ってシャワーを浴び、神様に夕拝。
神言奏上、讃美歌をあげつつ日本を思う。

今頃、日本は夜中か。
今日も、どこそこの稽古場で
あの人やこの人が稽古をしてるんだろうなあ。

皆の顔を思うと元気が湧く。

さあ、レストランへ。
今夜もきっと遅くまで食べるに違いない。