特定非営利活動法人 武道和良久

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誌上講座64

75剱〜言霊剱 (21)

「何も足さない、何も引かない」?

ひとつのことを成し遂げる人に共通な事柄があります。
それは人の言うことを聞かない、偏屈で頑固な性格・・・

よく○○馬鹿とか言いますが、一つの芸に秀でていて、
そのことをさせたら天下一品。しかし専門外のことを要求されたら
さっぱりだめ。

・・・これは一種の精神集中状態と思います。

仕事をなしているときは、彼らにとって明らかに自分を中心に
地球が回っているのです。

私は思います。

ある種これはいいことじゃないかと。

歴史をみるに、こういった偏屈といわれる特殊技能者たちの手によって
確かな文化が後世に伝えられたのは間違いのない事実です。

人間の一生、そんなに長くはありません。

ひとつのことを成し遂げるのでさえ並大抵ではありません。

そんなに沢山のことは出来ません。

一つ・・・人には必ず一つ世界に誇れることがあるのではないかと思います。

その人でないといけないこと、その人がこの世に生まれてきた理由
ともいうべきものが必ずあると思うのです。

ひとつのことを成し遂げるに際し、その成し遂げることの本当の難しさを
知った時、人は決して傲慢な態度にはなれるものではありません。

ただ完成に至る過程を邪魔をされたくない、
人生に与えられたわずかな時間を大切にしたい

そういった人たちは、半分神がかりの状態になります。

そんなことから、その異常ともいえる精神状態は、端から見ると
近寄りがたい「偏屈人間」に写るのです。

職人と言われる特殊技能者たちには一様に社会生活の適応力が乏しく、
集団に馴染めず、引きこもりがちになります。

「井の中の蛙、大海を知らず」というのは
引きこもった人間に対する批判をする言葉ですが、

私は彼ら特殊技能者たちは
「井の中の蛙、大海を知りたくない」
の心境じゃないかとも思えるのです。

頼むから俺の仕事の邪魔をしてくれるな・・・と。

自分の仕事に対し大いに誇りをもち
神より与えられた、この限られた命をまっとうできれば
これほどの幸せはないのではないかと思います。

「何も足さない、何も引かない」というのは
透明度の高さを表した素晴らしい表現だと思います。


続く・・・